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東京地方裁判所 昭和29年(ワ)11426号 判決

原告 一瀬雅一

右訴訟代理人弁護士 中村嘉兵衛

同 正田光治

同 丁野暁春

被告 深沢甲子雄

右訴訟代理人弁護士 永井勘太郎

同 景山収

同 荒井秀夫

同 真野毅

同 稲田進吾

同 山口信夫

同 鈴木富七郎

主文

被告は原告に対し、別紙目録記載の建物を収去して、その敷地の九坪二合五勺を明け渡せ。

訴訟費用は、被告の負担とする。

この判決は、原告において、金五万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

≪一部省略≫

次に、被告の七の抗弁についてしらべてみると、被告は、同一の所有者に属する土地及びその土地上に存在する建物のうちのいずれか一方が代物弁済に関する契約の目的となり、他に譲渡された結果、土地と建物が別々の所有者に属するに至つた場合、民法第三百八十八条の規定が類推適用され、建物所有者のために、その敷地に、法定地上権が成立する旨主張するので考えるのに、そもそも、建物の存続には、土地の使用を必要とし、しかも、土地及びその土地上に存在する建物が同一の所有者に属しているときは、土地所有権の内容は、その土地上の建物のために、潜在的に使用されているが、建物所有の目的で、自己の土地に賃借権、地上権等土地の使用関係を設定して、右潜在的使用関係を現実化する必要はなく、また、法律上も不能であるところ、右土地又は建物の一方の所有権が他に移転し、両者がその所有者を異にするに至つた場合には、右土地の潜在的使用関係は、現実化する必要もあるが、所有関係の分離が所有者の意思に基かないでなされたときには、当事者間で、使用関係を現実化するため、使用権の設定をすることは、必ずしも期待できないので、このときには、法律により、使用権の設定を認め、これにより、建物の存立を保護する必要があるのであつて、民法第三百八十八条の規定は、かかる目的のために、土地又はその土地上の建物の一方が抵当権の目的となり、競落され、その所有権が他に移転する場合に着眼して設けられたものである。しかしながら、いやしくも、右所有関係の分離が所有者の意思に基いてなされるときには、通常、当事者は、契約により、使用権を設定し、使用関係を現実化することができるから、法律は、何等、干渉する必要がなく、法定地上権の設定を容れる余地はないと解される。したがつて、本件において、右七の(一)、(二)の事実があつたとしても(右(一)の事実及び右(二)の事実のうち、被告が本件(三)の建物を譲り受けて、その所有権を取得したことは、原告の認めるところである。)民法第三百八十八条の規定を類推適用して、本件(三)の建物の敷地について、法定地上権の成立を認める余地はないといわなければならない。

のみならず、仮に右七の(一)、(二)の事実があつたことにより、本件(三)の建物の敷地について、法定地上権が成立したとすれば、被告は、右法定地上権の成立する当事者でないことは、右事実により、明らかであるところ、たとえ被告が、その後、右建物を譲り受けて、その所有権を取得すると共に、右法定地上権を譲り受けたとしても、その登記を経由していることを窺知できるような事実の主張、立証がないから、右法定地上権をもつて、右敷地の所有者である原告に対抗できない。したがつて、被告の七の抗弁もまた採用できない。

してみれば、本件(一)の宅地の所有権に基き、被告に対し、右宅地上に存在する本件(三)の建物を収去して、その敷地部分九坪二合五勺の明渡を求める原告の本訴請求は、正当として、認容されるべきである。

よつて、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条を、仮執行の宣言について(但し、無担保申立部分は、不相当と認めて、棄却する。)、同法第百九十六条を、それぞれ、適用して、主文のとおり、判決する。

(裁判長裁判官 豊水道祐 裁判官 土田勇 佐藤栄一)

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